世界各地には「CCRC」という高齢者が暮らすコミュニティがあります。
CCRCは、「高齢者が生活を送るのに必要な住居や施設やサービスが集約されたコミュニティ」であり、設備やサービスが充実している高級老人ホームと差がないように見受けられます。
この記事では、CCRCと高級老人ホームとの違い、日本で構想されている「日本版CCRC」について詳しく解説します。
先進事例であるアメリカのCCRCや日本で展開されているCCRCの事例も紹介していますので、どうぞ最後までご覧ください。
CCRCとは?
高齢者が終身暮らせる生活共同体
CCRCとは「Continuing Care Retirement Community(継続介護付きリタイアメントコミュニティ)」の略称です。
仕事を退職した高齢者が健康なうちから移住し、介護や医療ケアが必要になっても終身暮らせる生活共同体のことをいいます。
世界で広がる「リタイアメントコミュニティ」
CCRCは、「リタイアメントコミュニティ」や「アクティブシニアタウン」とも呼ばれ、高齢者が快適に暮らすために必要な住まい、医療機関、商業施設、娯楽施設などが1ヶ所のエリアに集約されています。
まるで1つの村のように機能していることから、リタイアメントビレッジと表現される場合もあります。
リタイアメントコミュニティは、アメリカ、オーストラリア、カナダなどを中心に世界中に広がり、居住対象者は仕事を引退した高齢者です。
健康で自立した状態のうちに入居する方が多く、コミュニティによっては終身生活を送ることも可能です。
最近では欧米だけでなく高齢化が進むマレーシアでも介護事業が活発化。特に政府主導の大規模な都市開発がおこなわれているジョホール・バルでは、リタイアメントビレッジや高齢者ケア住宅の開設が進んでいます。
高級老人ホームとは何が違う?
日本の高級老人ホームも、施設内に娯楽が楽しめる共有スペースや美味しい料理を味わえるレストランが併設され、介護サービスが提供されているほか、医療機関と連携しているホームがほとんどです。
CCRCは高級老人ホームと何が違うのでしょうか?
健康で元気なうちから移住する
まずCCRCは、仕事をリタイアした高齢者が「健康で元気なうちから移住する場」であり、介護を前提とした入居ではないことが挙げられます。
可能な限り自立した生活を送る
例えばアメリカのCCRCは、できる限り自立した生活を営むことを目標としたコミュニティで、自立型・支援型と段階を踏んだケアやサービスが提供されているのが特徴です。
アメリカの多くのCCRCが55歳から入居できるということからもわかるように、早くから老後を見据えた生活を構築するための場ともいえるでしょう。
ボランティア活動が介護予防に
また、CCRCに居住する半数近い高齢者が、何らかのボランティア活動をおこなっているという調査結果もあり、「社会の役に立っている」というポジティブな気持ちが介護予防にもつながっています。
日本の老人ホームは介護ありき
日本の高級老人ホームも一部の施設では入居時の条件を自立とし、健康で元気な高齢者を入居対象者としています。
しかし日本の高齢者は、持病を抱えている、在宅介護が難しくなってきた等、身体不安が出てから入居検討する方が大半です。
令和4年に公益社団法人 全国有料老人ホーム協会が実施した調査によると、有料老人ホーム(介護付き・住宅型・サ高住)に入居している方の約8割が要介護者という結果が出ています。
また、老人ホームの入居者で、仕事を継続している方やボランティア活動に専念している方は非常に少ないでしょう。
そのため、老人ホーム側も介護ありきで入居を受け入れています。
出典・参考文献:
九州大学 大学院 医学系学府 医療経営・管理学専攻/米国のCCRC(九州大学大学院医療経営・管理学講座 馬場園 明 CCRC研究所 窪田 昌行)
高尾 真紀子,日本版 CCRC の課題と可能性 ―ゆいま~るシリーズを事例として―,p85-93,地域研究センター紀要『地域イノベーションvol.10』,2017
「高齢者向け住まいにおける運営形態の多様化に関する実態調査研究事業」報告書(全国有料老人ホーム協会)
「街」としてのコミュニティを形成
CCRCは「高齢者が暮らしやすいコミュニティ」を「高齢者のために」形成していることも特徴の1つです。
住居はバリアフリー化されたもの、コミュニティエリアに、娯楽設備やレストランがあるほか、遊歩道、フィットネスセンター、商業施設、病院、銀行、訪問介護・看護ステーション、生涯学習を受けられる学校などが整備されています。
まさに、CCRCは「街」として機能しており、高齢者が健康的かつ文化的な第2の人生を送るにふさわしいコミュニティといえるでしょう。
日本の高級老人ホームも設備やサービスは充実していますが、施設内で完結できる内容にとどまっています。
CCRCと比較すると、高齢者のコミュニティとしては狭く、限定的なものであることがわかります。
アメリカのCCRC事例
CCRC発祥の地であるアメリカには、現在約2,000のCCRCがあります。
以下にアメリカのCCRCの事例として、最初に開発された「サンシティ」と、ニューズウィークが選出したアメリカで最も優れたCCRCである「ヒューマングッド – ヴァレベルデ」を紹介します。
CCRC先進事例・高齢者のための街「サンシティ」
世界で最初に開発され、最も有名なCCRCが、アリゾナ州フェニックス近郊のサンシティです。
1950年代末期よりリタイアメントコミュニティの形成がはじまったアメリカ。リタイアメントコミュニティは国や自治体の政策ではなく民間企業を中心に計画・開発されてきました。
その先駆けともいえるサンシティは、不動産会社によって1959年に開発され、翌1960年から分譲が開始されました。
住民が支え合いながら豊かな老後を過ごす
サンシティでは、商業施設や医療機関、銀行、郵便局など基本的な生活インフラはすべて徒歩や自転車で出かけられる範囲内にあります。
ゴルフやテニスが楽しめるレクリエーション施設や図書館や劇場なども設けられており、老後の余生を楽しみながら暮らせる環境が整っているのも特徴でしょう。
また、サンシティの設備や管理は基本的に住民が担っているというのも特筆すべき点です。 住戸や居住に関する規制や規則は住民が参画する協会がおこない、治安維持や介護・医療サービスなども住民の寄付金によって運営されているNPOが対応しています。
出典:国土交通省/高齢者コミュニティ「サンシティ」(米国アリゾナ州)
アメリカで最も優れたCCRC「ヒューマングッド – ヴァレベルデ」
アメリカの有名週刊誌ニューズウィークが発表した「アメリカで最も優れたCCRC 2024」で第1位を獲得したのが、カリフォルニア州サンタバーバラにある「HumanGood – Valle Verde(ヒューマングッド – ヴァレベルデ)」です。
美しく整備された住宅街にはさまざまな間取りの平屋建て住戸が建ち並び、敷地内には、レストランをはじめシアター、フィットネスセンター、スパ&サロン、スイミングプール、図書館、コンビニエンスストアなど、生活を送るのに十分な施設が揃っています。
各種サービスも充実しており、入居者が優先的に受けられる医療・介護サービス、郵便・銀行サービス、レクリエーションや生涯学習の機会といった多種多様なものが用意されているのも特徴でしょう。
入居者からは食事やスタッフによるケアやサポートが支持され、満足度の高いCCRCとしての地位を確立しています。
出典:
NEWSWEEK DIGITAL/America’s Best Continuing Care Retirement Communities 2024
Valle Verdeウェブサイト
日本版CCRCについて
首都圏への人口集中を緩和させる目的がある
日本においてもリタイアメントコミュニティに注目が集まり、2015年に政府が「日本版CCRC構想有識者会議」を実施しています。
日本版CCRCは、首都圏への人口集中を解消するために、地方移住を希望する高齢者の後押しをおこない、かつ、高齢者の移住により地方創生を目指すことを目的としているのが特徴です。
出典:内閣官房・内閣府総合サイト 地方創生/日本版 CCRC 構想(素案)
日本におけるCCRCの事例
現在日本では、企業や一部自治体が中心となり、CCRCを取り入れたコミュニティを形成しています。
日本版CCRCの理想に近い事例としては、株式会社コミュニティネットが運営する「ゆいま~る那須」が挙げられるでしょう。
ゆいま~る那須(栃木県那須町)
栃木県那須郡那須町に立地するゆいま~る那須は、民間企業が運営するCCRCです。
那須町は高齢化率が40.4%(65歳以上・2020年)で人口減少が進行。高齢者が安住できる施設の準備を進めており、ゆいま~る那須が開設されたきっかけは空き別荘の対策によるものでした。
ゆいま~る那須は、アメリカのサンシティと類似したコミュニティを構築。戸建風のサービス付き高齢者向け住宅を中心に、入居者が自由に活動できる共用スペースや地産地消を意識した食材を利用する食堂が併設されています。
医療機関や買い物への外出は送迎車を利用。複数のルートを回ることができます。
特徴的な取り組みは、住居内で独自の通貨を発行、それを利用して住居内で働く入居者がいることでしょう。
入居者は都市部からの移住者も多く、地方創生のあり方としてもモデルとなっているリタイアメントコミュニティといえます。
出典:
高尾 真紀子,日本版 CCRC の課題と可能性 ―ゆいま~るシリーズを事例として―,p85-93,地域研究センター紀要『地域イノベーションvol.10』,2017
ゆいま~る那須ウェブサイト
日本版CCRCの課題
日本版CCRCは、高齢者が地方に移り住むことで地方を活性化するという地方創生を目的とした構想です。
しかし、以下のような課題があり、問題を解決しなければ成功が難しいだろうといわれています。
- 地方に移住したり、自宅から住み替えたりすることへの抵抗
- 地方自治体における受け入れ体制の整備
地方移住への抵抗と費用の負担
日本版CCRC構想の素案には、50代・60代の約3割が、将来的に地方に移住したいという希望があるとの記載がなされています。
しかし、MY介護の広場・入居相談室への実際の相談内容を踏まえると、高齢者は長く住み慣れた自宅や地元を離れることへの抵抗が強い傾向です。
地方に移り住む魅力やメリットをどう高齢者に伝えるかというのは最大の課題でしょう。
また、移住にかかる費用は高齢者の負担となります。
移住を後押しするには、補助金といった国や自治体によるサポートも考慮する必要があります。
医師や介護人材の不足をどう解決するか
高齢者を移住させるには、地方自治体の受け入れ体制の整備も進めなくてはなりません。医療機関や介護サービスの拡充が受け入れの前提となります。
しかしながら、地方は医師不足や介護人材の不足が顕著であり、人材確保という大きな問題が立ちはだかります。
さらに、高齢者が増えると医療費や介護費の自治体負担が増加します。財政をどのように維持するかも考えていく必要があるでしょう。
日本のCCRCは、ゆいま~る那須のように一部の民間企業が展開しているものや、一部の自治体がCCRCの内容を部分的に取り入れる程度にとどまっています。
アメリカのようにCCRCの拠点を増やすには課題が多く、日本版CCRC成功への道のりはまだ遠い状態といえるでしょう。
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高級老人ホームには以下のような特徴があります。
- 要介護の状態から入居できる高級老人ホームは意外と少ない
- 自立で元気な状態でなければ入居できない高級老人ホームがある
- 利便性に優れた高級老人ホームは満室傾向
体調を崩したり、突然介護が必要になったり、緊急を要した状態の場合、そもそも高級老人ホームに入居できないといったおそれも。
「快適な高級老人ホームで何不自由なくシニアライフを送りたい」というご希望のある方は、お早めに高級老人ホーム探しをスタートすることをおすすめします。
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些細なことでも構いません。どうぞお気軽にお問い合わせください。